一憩は暫く考え込んでいたが、やがてゆっくり開眼すると傍らにいた木元辰乃丞という文官に「余の剣と、虎の印をこれへ」と言い、持ってこさせた。そして紫色の絨毯に覆われた階段をゆっくり降りるとカート将軍の前へ行き、虎の印を手渡して「行け。行ってノーマン将軍を助けよ」と言った。そして、カート将軍の左斜め後ろにいた稲葉浩志という武官の首を自らの剣で叩き切って階段右横の「燃えないゴミ」と書かれた箱に投げ棄て、背中越し、カート将軍に「負けは許さん」と言った。
「あ、有り難き幸せ!」カート将軍は目を輝かせて言うと、付き従う二人の大男に「行くぞ!」と一喝、喜び勇んで宮外へと飛び出していった。
「カート将軍なら無問題」「さすが我が君、器がデカイ!」「『仕事が速い!』みたいに言うなや、あぱぱぱぱ」我が身の安全を確信した将校どものざわめきに呆れ果てている一憩の耳に突如、予想だにしない女性の声が飛び込んできた。
「我が君。私をお忘れか!」
「おう、誰かと思えば」
名乗り出たのは他でもない。エコーベリー率いるソニア・マダン将軍、その人であった。
〈続く〉
歴史小説・散獄志(其の参)
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