少し考えて、一憩は「確かに」と口火を切った。「確かに今、最も優先すべき点は余の思い入れだ。雑音に耳を貸しておるような局面ではない。そして、考えてみれば我が軍に不在なのは女性である。女性の力である。先程、余の目にはアンナ将軍に後光が差しておるように見えたが、あれは思うに神の声である。「汝、女を信じよ」という神の声である。ソニア将軍、余はそなたを信じてみようと思う。八頭目の虎となってあの黄色い布の病んだ賊どもを蹴散らしてまいれ」
一憩はそう言って勢いよく立ち上がると、木元辰乃丞の隣で将校どもの中に不審な動きをする者はいないか剣の柄に手を掛けて見張っていた土谷久ノ宗に合図をして、自身の剣と虎の印を持ってこさせた。そして、階段を降り、ソニア将軍に剣と虎の印を授与すると、ソニア将軍は何も言わず二歩後退し、深く頭を下げてのち反転、先程アンナ将軍が立っていたあたりまでゆっくりと歩いていき、そこでこの会議の間中ずっと立ったまま寝ていた秋元康というだらしなく太った文官を一刀両断に切り捨ててから、同志の者4名を引き連れて宮殿を後にした。
「打てる手は全て打った。後の成り行きは神のみぞ知る。解散!」一憩の号令一下、将校どもはモゴモゴモゴモゴ口々に何か言いながら散っていったが、一憩はその虫の如き腰抜け将校どもの背に心中、「お前らもそのうち絶対ぶち殺すからな」なる言葉を浴びせかけていた。
〈終〉
歴史小説・散獄志(其の六)
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