「我が君。私をお忘れか!いや、いやいやいや、断じて忘れたとは言わせまい。我が君。我が君がこの国家存亡の危機に際して、今再び強く求めておるのはまさに私であり、私の声でありましょう。ここで私でしょう。今、私を虎に任命せずして誰を任命するのですか?確かに私の、エコーベリーの知名度は他の虎の方々と比べると圧倒的に低い。それは認めます。でも問題は、この緊急事態において最も優先すべき点は、我が君、あなたの思い入れでしょう。あなたの思い入れこそがあなたとあなたの国を救うのです。さあ、お渡しください。我が君のお手元にあと三つある虎の印。そのうちの一つを私に、エコーベリーにください!」インド人とイギリス人の間に生まれた歌姫、ソニアは涙ながらに叫んだ。
「な、なんと無礼な!わ、我が君に対してなんたる口のききかた!私がそなたを成敗してくれん!」宮中後方からヒステリックな声。浜崎あゆみという不細工な武官が薙刀を振りかざし、ソニア将軍の元へ走り込んで来たが、あと一歩というところでどこからともなく「黙れスパイ!不細工のくせに!」という声がするや後頭部に矢が突き刺さり、浜崎あゆみはどおっと前方へ勢いよく倒れ込んだ。見るからに即死。一憩以下、その場に居合わせた将校どもが宮中最後方、門の所に目をやると、外界の光に照らされて後光が差したようになっている弓矢を手にした土屋アンナ将軍が立っていた。アンナ将軍はゆっくり弓矢を降ろすと「御免」と囁くように言って宮外に去っていった。
〈続く〉
歴史小説・散獄志(其の五)
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