昨日、遠路、長い時間電車に揺られて、剣吾くんが会いに来てくれた。アンプを台車に乗せ、ベースを背負って。
昨日、本当なら一憩はライブをやっているはずだった。そしてそのライブには中盤から剣吾くんも登場する予定だった。久しぶりに二人でスタジオに入って、本格的に練習をしだした矢先の中止だった。
周りを田んぼに囲まれた、音を気にしなくて済む家の中で、お客さんは私たちの両親と一頭の犬だけだったけれど、一憩と剣吾くんは「予定通り」ライブをやった。そして「息、ピッタリやな」とお客さんを驚かせた。
今日も「音出そう」と剣吾くんは言ったが、一憩は「昨日出し尽くしたよ」と言った。
晴天。二人は裏庭のベンチに腰掛けて色んな話をした。中でも昔、一緒にバンドをしていた時の話はめちゃくちゃ盛り上がっていた。「お互い頭丸めてゴミみたいなパンクバンドやる?」とか言って笑ってた。
夕方、剣吾くんは帰って行った。一憩は改札まで見送って「ありがとう」とだけ言った。来てくれたことが嬉しくて、感謝の気持ちでいっぱいで、いっぱい過ぎて、「ありがとう」が精一杯だった。
駅からの帰り道、一憩は私に「剣吾くんになんかめちゃくちゃええことあったらええな」と言った。私は「ホンマにね」と答えた。
「ベンチ」〈文・写真/阿仁真里〉
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